『今昔物語集』の安倍晴明|百鬼夜行・式神・カエルを潰した不思議な話

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陰陽師として有名な安倍晴明(あべのせいめい)。

現代では映画や漫画、アニメなどにも登場し、「式神を操る陰陽師」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。

そんな安倍晴明の不思議な力について、平安時代末期ごろに成立したとされる『今昔物語集』にも興味深い話が残されています。

『今昔物語集』巻第二十四第十六の「安倍晴明、忠行に随ひて道を習ふ語」では、

  • 若き日の晴明が鬼の集団に遭遇する話
  • 他人の式神を隠してしまう話
  • 呪術によってカエルを潰す話
  • 晴明の家で式神が働いていたと思われる話

などが、一つの説話の中で語られています。

今回は『今昔物語集』に描かれた安倍晴明の不思議な逸話を、現代語でわかりやすく紹介します。


『今昔物語集』に登場する安倍晴明とは

『今昔物語集』巻第二十四第十六は、

「今は昔、天文博士安倍晴明と云ふ陰陽師有けり」

という晴明の紹介から始まります。

晴明は、昔の優れた人物にも劣らないほどの陰陽師だったとされています。

そして、幼いころから賀茂忠行(かものただゆき)という陰陽師について、陰陽道を学んでいました。

賀茂忠行は、晴明の師にあたる人物です。

『今昔物語集』には、若き日の晴明が忠行と一緒に夜道を歩いていたときに体験した、不思議な出来事が記されています。

それが、鬼の集団との遭遇です。


安倍晴明が百鬼夜行に遭遇?鬼の集団を見つける

ある夜、賀茂忠行が出かけることになり、若い安倍晴明もそのお供をしていました。

忠行は牛車に乗り、晴明はその後ろを歩いていました。

やがて忠行は牛車の中でぐっすり眠ってしまいます。

ところが、晴明には恐ろしいものが見えました。

前方から、恐ろしい鬼たちがこちらへ向かってきたのです。

驚いた晴明は牛車へ走り寄り、眠っている忠行を起こして、鬼たちがやってくることを知らせました。

『今昔物語集』に「百鬼夜行」と書かれているわけではない

この場面は、安倍晴明が百鬼夜行に遭遇した話として紹介されることがあります。

百鬼夜行とは、多くの鬼や妖怪たちが夜の町を行列して歩くという伝承です。

ただし、『今昔物語集』の本文そのものに「百鬼夜行」という言葉が書かれているわけではありません。

原文では、「艶ず怖き鬼共」つまり、非常に恐ろしい鬼たちが前からやってきたという内容になっています。

そのため、「安倍晴明が百鬼夜行に遭遇した」というのは、この場面を分かりやすく表した呼び方と考えた方がよいでしょう。


賀茂忠行は術を使って鬼から姿を隠した

晴明に起こされた忠行も、近づいてくる鬼たちを確認します。

すると忠行はすぐに術を使いました。

その術によって、

自分だけでなく、一緒にいた人々の姿まで鬼から見えないようにした

のです。

その結果、一行は鬼に襲われることなく、無事にその場を通り過ぎることができました。

ここで注目したいのが、若き日の晴明です。

晴明自身が鬼を退治したわけではありません。

しかし、師である忠行よりも先に鬼の存在に気づいています。

忠行は、この出来事をきっかけに晴明の才能を高く評価したのでしょう。

その後、忠行は自分の持つ陰陽道の知識を晴明に惜しみなく教えます。

『今昔物語集』では、その様子を、

「瓶の水を写すが如し」

と表現しています。

一つの瓶から別の瓶へ水を移すように、自分の知識を晴明へ伝えたという意味です。

こうして晴明は、優れた陰陽師へと成長していきました。


老僧が安倍晴明の実力を試しにやってくる

賀茂忠行が亡くなった後のことです。

晴明の家に、一人の老僧がやってきました。

老僧は、10歳くらいの二人の童子を連れています。

老僧は晴明に、

「私は播磨国の者です。陰陽道を学びたいと思っています。あなたがこの道に非常に優れていると聞いたので、少し教えていただきたいのです」

という意味のことを話しました。

しかし、晴明は老僧を見るなり、その正体を疑います。

「この僧は陰陽道についてかなりの知識を持っている。私の実力を試そうとしているのではないか」

と考えたのです。

しかも晴明は、老僧が連れている二人の童子についても、

「これは人間ではなく、式神だ」

と見抜いてしまいます。


安倍晴明は他人の式神を隠してしまった

晴明は二人の童子が式神であることを見破ると、袖の中に両手を入れました。

そして、人から見えないように印を結び、ひそかに呪文を唱えます。

そのうえで老僧には、「今日は時間がありません。また日を改めて来てください。そのときには教えましょう」と言って帰しました。

老僧は喜んで帰っていきます。ところが、しばらくすると再び晴明の家へ戻ってきました。

先ほどまで一緒にいた二人の童子が消えてしまったのです。

老僧は周囲を探し回ったあと、「先ほど連れていた童子二人を返してください」と晴明に頼みます。

当然、晴明はすぐには認めません。

しかし最後には、

「私を試すために式神を連れてきたので、不愉快に思ったのだ」

という意味のことを伝えます。

そして晴明が再び呪文を唱えると――。

外から二人の童子が走ってきて、老僧の前に現れました。


「人の式神を隠す」安倍晴明の恐ろしい実力

これには老僧も驚きました。

老僧によると、

式神を使うこと自体は昔から行われており、それほど難しくない。

ところが、

他人が使っている式神を隠してしまうことは、とても普通ではできない。

というのです。

老僧は晴明の実力を認め、

「これからは、あなたの弟子にしてください」

と改めて頼みました。

つまりこの話では、

安倍晴明は式神を操れるだけではなく、他人が操っている式神にまで干渉できる陰陽師

として描かれているのです。


安倍晴明がカエルを呪術で潰した話

『今昔物語集』に描かれた晴明の能力の中でも、特に衝撃的なのがカエルを殺した話です。

あるとき晴明は、広沢の寛朝僧正という人物のもとを訪れていました。

そこで若い貴族や僧たちと話をしていると、彼らが晴明に尋ねます。

「式神を使えば、人をすぐに殺すこともできるのですか」

晴明は、そう簡単なことではないという趣旨の返事をします。

しかし、少し力を入れれば殺すことはできるとも話しました。

一方で晴明は、

殺した生き物を生き返らせる方法は知らないため、むやみに殺せば罪になる

とも考えていました。

この言葉からは、晴明が自分の術を無意味に使おうとしていなかったことも分かります。


そんな話をしているところへ、庭から5、6匹ほどの「蝦蟆」が跳ねながら池の方へ向かっていきました。

「蝦蟆」は、現在の言葉でいえばガマ・ヒキガエルのことです。

それを見た人々は晴明に、

「あれを一匹殺してください。あなたの術を試してみたい」

と頼みました。

晴明は、

「罪を作らせる人たちだ」

という意味のことを言います。

それでも試してほしいというので、晴明は草の葉を摘み取ります。

そして呪文を唱えるようにして、その葉をカエルの方へ投げました。

すると、草の葉がカエルの上にかかった瞬間、カエルは真っ平らになって死んでしまったのです。

その場にいた僧たちは、晴明の力を目の当たりにして顔色を失い、震え上がりました。

ただし、現在伝わる本文では、この「真っ平らになって」の周辺に欠字があります。

それでも、草の葉がかかった直後にカエルが潰れて死んだという話の大筋は読み取ることができます。


安倍晴明の家では式神が働いていた?

『今昔物語集』の晴明の話は、さらに不思議な記述で終わります。

晴明の家では、誰もいないにもかかわらず、蔀(しとみ)が勝手に上げ下げされることがあったといいます。

蔀とは、平安時代の建物に使われた、上下に開閉する板戸のようなものです。

さらに、閉める人がいないのに門が閉まることまであったそうです。

『今昔物語集』の語り手は、晴明が式神を使っていたからではないか、という形でこの怪異を紹介しています。

つまり晴明は、特別な場面だけで式神を使っていたのではなく、普段の生活の中でも式神を働かせていたと当時の人々には考えられていたのでしょう。


『今昔物語集』の安倍晴明はどんな陰陽師だった?

『今昔物語集』巻第二十四第十六には、一つの説話の中にいくつもの晴明の逸話が収められています。

整理すると、次のようになります。

エピソード描かれている晴明の能力
鬼の集団との遭遇普通の人より先に鬼を見る
賀茂忠行への弟子入り陰陽道の才能を認められる
老僧と二人の童子式神を見抜く
老僧の式神を隠す他人の式神に干渉する
カエルの話呪術によって生き物を殺す
晴明の家式神を日常的に使う

現代では、安倍晴明というと「式神を操る陰陽師」というイメージが非常に強くなっています。

しかし『今昔物語集』を読むと、鬼を見る能力、式神を見破る能力、他人の式神を隠す能力、さらには生き物を殺すほどの術など、さまざまな超人的能力を持つ人物として語られていることが分かります。

そして、この話の最後では、晴明は「只者」ではなかったという趣旨の言葉で締めくくられています。


まとめ|『今昔物語集』には安倍晴明の不思議な逸話が収録されている

『今昔物語集』巻第二十四第十六「安倍晴明、忠行に随ひて道を習ふ語」には、安倍晴明にまつわる複数の不思議な話が収録されています。

若き日の晴明は、師の賀茂忠行と夜道を歩いているとき、前方からやってくる恐ろしい鬼の集団に気づきました。

成長した晴明は、老僧が連れてきた童子を一目で式神だと見抜き、さらにその式神を隠してしまいます。また、晴明の術を試そうとした人々の前では、草の葉を投げただけでカエルを押し潰してみせました。さらに晴明の家では、誰もいないのに蔀や門が動いていたとも伝えられています。

現代にまで続く「不思議な力を持つ陰陽師・安倍晴明」というイメージ。

『今昔物語集』を読むと、こうした晴明伝説がすでに古い時代から語られていたことが分かります。

安倍晴明は、平安時代の陰陽師であると同時に、後世の人々の想像力を刺激し続けてきた「怪異の世界の人物」でもあるのです。

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